電子帳簿保存法への対応を検討すると、必ず登場するのが「タイムスタンプ」です。しかし2022年の法改正で要件が大きく緩和され、タイムスタンプは「必須」ではなくなりました。
この記事では、タイムスタンプの仕組みと役割から、付与せずに要件を満たす方法、費用、具体的な手順、システムの選び方までを実務目線で整理します。経理現場で「結局うちは付けるべきなのか」を判断できる状態を目指します。
この記事の結論(先に要点)
- タイムスタンプは条件を満たせば不要(訂正削除履歴が残るクラウド等)
- 単体のタイムスタンプは有料(目安:月額8,000〜10,000円+初期費用、または1回10円前後の従量)
- 自社の保存区分(電子取引/スキャナ保存/電子帳簿)ごとに対応方法を決めるのが近道
タイムスタンプと電子帳簿保存法の基本的な関係
最初に、そもそもタイムスタンプとは何で、電子帳簿保存法のどの部分に関わるのかを押さえます。ここを曖昧にしたまま「必須/不要」を議論すると判断を誤ります。
タイムスタンプとは電子文書の「真実性」を証明する技術
タイムスタンプとは、ある電子データが 「特定の時刻に存在していたこと(存在証明)」 と 「その時刻以降に改ざんされていないこと(非改ざん証明)」 を証明するための技術です。
紙の書類なら印影や受領印で「いつの・本物の書類か」をある程度担保できますが、電子データは複製・編集が容易です。そこで第三者機関の時刻情報を紐づけ、原本性を客観的に示すのがタイムスタンプの役割です。
電子帳簿保存法で求められる「真実性」と「可視性」
電子帳簿保存法では、電子データの保存にあたって大きく2つの柱が求められます。
| 要件 | 内容 | 代表的な対応手段 |
|---|---|---|
| 真実性の確保 | データが改ざんされていないこと | タイムスタンプ/訂正削除履歴が残るシステム/事務処理規程 |
| 可視性の確保 | 後から検索・表示・出力できること | 日付・金額・取引先での検索機能、ディスプレイ・プリンタの備付け |
タイムスタンプが関わるのは、このうち真実性の確保です。つまりタイムスタンプは「真実性を満たす手段の一つ」であって、唯一の方法ではないという点が、改正後の最重要ポイントになります。
法律上タイムスタンプが登場する3つの保存区分
電子帳簿保存法は、保存対象を次の3区分に分けています。タイムスタンプの要否は区分によって変わります。
- 電子帳簿等保存:会計ソフトで作成した帳簿・決算書を電子のまま保存
- スキャナ保存:紙で受け取った領収書・請求書をスキャンして保存
- 電子取引:メール添付PDF、Web明細など最初から電子のデータを保存
このうち電子取引は2024年1月以降、原則として電子のまま保存することが義務化されています。区分ごとの対応は後半の手順で詳しく整理します。
タイムスタンプの仕組み:ハッシュ値で改ざんを検知する
「なぜ改ざんが分かるのか」を理解しておくと、不要要件の意味も腑に落ちます。鍵になるのがハッシュ値です。
ハッシュ値とは「データの指紋」
ハッシュ関数を使うと、どんな電子データも固有の短い数値列(ハッシュ値)に変換できます。特徴は次の2つです。
- 同じデータからは常に同じハッシュ値が生成される
- データが1文字でも変わると、まったく異なるハッシュ値になる
この性質から、ハッシュ値は「データの指紋」に例えられます。後から再計算したハッシュ値が当初の値と一致すれば、データは書き換えられていないと判断できます。
タイムスタンプが付与される流れ
実際の付与は、利用者と時刻認証局(TSA:Time Stamping Authority)の間でやり取りされます。
- 利用者側で対象データのハッシュ値を生成する
- そのハッシュ値を時刻認証局へ送信する
- 認証局が正確な時刻情報を付与してタイムスタンプを発行・返送する
- 利用者は元データとタイムスタンプをセットで保存する
検証時は、保存データから再生成したハッシュ値とタイムスタンプ内の値を照合します。一致すれば「その時刻に存在し、以後改ざんされていない」ことが証明されます。
「認定タイムスタンプ」でなければならない理由
電子帳簿保存法で認められるのは、一般財団法人日本データ通信協会が認定した事業者のタイムスタンプです(総務大臣認定の時刻認証業務)。誰でも付けられる時刻情報ではなく、第三者性・正確性が担保された時刻でなければ証明力を持たないためです。記事内で「認定タイムスタンプ」と呼ばれるのはこの仕組みを指します。
パソコンの内部時計やフリーソフトで打刻した「日時」は、本人がいくらでも書き換えられるため、改ざんされていないことの証明にはなりません。認定事業者の時刻認証局(TSA)は、利用者から独立した第三者として正確な時刻を付与し、その時刻情報自体も検証可能な形で保持します。だからこそ税務調査の場面でも、付与された時刻と一致する=存在証明として通用するわけです。電子帳簿保存法でわざわざ「認定タイムスタンプ」と限定しているのは、この第三者性と時刻の正確性を担保するためだと理解しておくと、要件の意味がつかみやすくなります。
2022年改正でタイムスタンプが「必須ではなくなった」理由
ここが本記事の核心です。多くの人が「電帳法=タイムスタンプ必須」と誤解していますが、実態は変わっています。
改正の概要:要件緩和でタイムスタンプ代替を許容
2022年施行の改正電子帳簿保存法では、スキャナ保存・電子取引の真実性要件が緩和されました。具体的には、訂正・削除の履歴が残る(または訂正削除そのものができない)クラウドシステムに、定められた期間内にデータを格納する場合、タイムスタンプの付与が不要になりました。
つまり「タイムスタンプを付ける」か「履歴の残るシステムに入れる」かのどちらかで真実性を満たせる、という二者択一の構造になったのです。
タイムスタンプ付与期間も緩和された
従来はスキャナ保存時、受領後おおむね3営業日以内など短い期間での付与が求められていました。改正後はこの期間が大幅に延び、最長で約2か月+おおむね7営業日以内に付与すればよくなっています。
| 項目 | 改正前(旧要件) | 改正後(現行) |
|---|---|---|
| タイムスタンプ | 原則必須 | 条件を満たせば不要 |
| 付与までの期間 | 受領後おおむね3営業日以内 | 最長 約2か月+おおむね7営業日以内 |
| 自署(手書き署名) | 必要な場合あり | 不要 |
| 適正事務処理要件(相互けん制等) | 必要 | 廃止 |
※要件は今後の改正で変わる可能性があるため、最終確認は国税庁の最新の取扱い・一問一答を参照してください。
改正の狙いは「電子化のハードルを下げる」こと
これらの緩和は、紙からの脱却を促し、経理のペーパーレス・効率化を後押しする狙いがあります。タイムスタンプの契約・運用が負担で電子化に踏み切れなかった中小企業でも、要件を満たすクラウドを選べばタイムスタンプ抜きで対応できるようになりました。
タイムスタンプを使わずに真実性の要件を満たす2つの方法
「付けない」を選ぶなら、代わりに何で真実性を担保するかを決める必要があります。実務で使われる代表的な方法は2つです。
方法1:訂正削除履歴が残る(または訂正削除できない)システムで保存する
最も一般的なのが、訂正・削除の履歴を残せるクラウドシステムを使う方法です。誰がいつデータを直したかがログとして残るため、改ざんされていないことをシステム側で担保できます。
- メリット:付与作業が不要で、日々のオペレーションが軽い
- 該当例:訂正削除ログを保持する会計・経費精算・文書管理クラウド
- 注意:受領から所定期間内にシステムへ格納する運用ルールが前提
方法2:事務処理規程を定めて運用する
システムを使わない、または安価に済ませたい場合は、**事務処理規程(訂正・削除の防止に関する規程)**を整備して運用する方法があります。国税庁はサンプル様式を公開しています。
- メリット:追加コストをかけずに対応できる
- デメリット:規程に沿った運用の徹底が必要で、属人的になりやすい
- 向くケース:取引件数が少ない個人事業主・小規模事業者
2つの方法の使い分け
| 観点 | システムで履歴保持 | 事務処理規程で運用 |
|---|---|---|
| 初期コスト | システム利用料 | ほぼ無料 |
| 運用負荷 | 低い(自動でログ) | 高い(人による徹底) |
| 件数が多い場合 | 向く | 不向き |
| 監査・調査対応 | ログで説明しやすい | 規程+運用記録で説明 |
取引量が増えるほどシステム保持が有利になります。規程運用は「まず無料で始めたい小規模事業者の入口」と捉えるのが実務的です。
ポイント:タイムスタンプ/システム履歴/事務処理規程は、いずれも「真実性」を満たす手段。自社の取引量と運用体制で最適解は変わります。
タイムスタンプの発行にかかる費用とコスト比較
「不要にできる」とはいえ、タイムスタンプを選ぶケースもあります。判断には費用感が欠かせません。
単体タイムスタンプサービスの費用相場
認定事業者のタイムスタンプを単体契約する場合、初期費用とランニングコストが発生します。あくまで一般的な目安ですが、次の水準で語られることが多いです。
- 初期費用:数千円〜数万円(登録・導入時)
- 月額(定額制):8,000円〜10,000円程度
- 従量制:発行1回あたり10円程度
発行数が少なければ従量制、毎月大量に発行するなら定額制が有利になりやすい構造です。
システム組み込み型なら追加費用を抑えやすい
会計ソフトや経費精算システムにタイムスタンプ機能が含まれている場合、システム利用料の範囲内で使えることがあります。単体契約よりトータルコストを抑えられるケースが多く、付与作業も自動化されます。
単体の認定タイムスタンプを別途契約すると、月額の固定費に加えて発行件数に応じた従量課金が積み上がり、取引量が増えるほどコストが読みにくくなります。これに対しシステム組み込み型は、スキャン・取り込みと同時に自動でタイムスタンプを付与する設計が多く、担当者が1件ずつ付与操作をする手間がありません。付与漏れ(=要件未達)のリスクをシステム側で吸収できる点も、属人的な運用に比べた実務上の利点です。逆に言えば、訂正削除履歴が残るクラウドを選べばタイムスタンプ自体が不要になるため、「組み込み型を選ぶ」か「履歴方式でそもそも付与しない」かは、自社の保存区分と既存システムとの相性で判断するのが合理的です。
コストの考え方:付ける vs 付けない
| 選択肢 | 主なコスト | 向いている事業者 |
|---|---|---|
| 単体タイムスタンプ | 初期費用+月額/従量 | 既存システムを変えたくない |
| システム組み込み型 | システム利用料に内包 | 経理を一元化したい |
| 履歴の残るクラウド(付与なし) | システム利用料 | 付与作業をなくしたい |
| 事務処理規程のみ | ほぼ無料 | 取引件数が少ない小規模 |
費用だけでなく、システムリプレイス時の対応も判断材料になります。タイムスタンプを付けていればデータ単体で原本性を示せますが、付けない場合は移行先でも履歴を引き継げる設計か確認が必要です。
会計ソフトの利用料の会計処理に迷う場合は、システム利用料の勘定科目の解説も参考になります。
区分別:自社の電子帳簿保存法への対応方法を決める手順
最後に、自社が「結局どう対応すべきか」を決めるステップを示します。保存区分ごとに必要なことが違うため、順番に切り分けます。
ステップ1:保存対象を3区分に仕分ける
まず手元の書類・データを区分に振り分けます。
- 電子帳簿等保存:会計ソフトで作る帳簿・決算関係書類
- スキャナ保存:紙で受領した請求書・領収書をスキャン
- 電子取引:メールPDF・Web明細・EDIなど最初から電子のもの
ステップ2:区分ごとに真実性の満たし方を決める
| 区分 | 真実性の満たし方(いずれか) | 義務/任意 |
|---|---|---|
| 電子帳簿等保存 | 訂正削除履歴の確認できるシステム等 | 任意 |
| スキャナ保存 | タイムスタ��プ or 履歴の残るシステム | 任意 |
| 電子取引 | タイムスタンプ or 履歴システム or 事務処理規程 | 原則義務 |
電子取引データは原則として電子のまま保存が義務化されているため、ここを最優先で固めます。タイムスタンプを使わない場合は、履歴の残るシステムか事務処理規程のどちらかを選びます。
ステップ3:可視性(検索・表示)の要件も忘れず確認
真実性ばかりに注目しがちですが、日付・金額・取引先で検索できることなどの可視性要件も必須です。システムを使えば自動的に満たせることが多い一方、フォルダ保存や表計算で運用する場合はファイル名規則や索引簿の整備が必要になります。表計算での帳簿管理を検討するならエクセル帳簿の作り方も合わせて確認しておくと判断しやすくなります。
ステップ4:運用ルールを文書化して定着させる
最後に、誰が・いつ・どの手順で保存するかをルール化します。タイムスタンプの付与期限、ファイルの命名、保存先を明文化しておくと、担当者が変わっても運用が崩れません。経費精算まわりの仕訳整理はコピー代の勘定科目など個別科目の記事も実務の助けになります。
タイムスタンプ対応に強いシステムの選び方
タイムスタンプを付ける・付けないにかかわらず、システム選定は対応の成否を左右します。チェックすべき観点を整理します。
確認すべき4つのチェックポイント
- 真実性への対応方式:訂正削除履歴が残るか、タイムスタンプ機能を内蔵するか
- 対応区分の広さ:電子取引・スキャナ保存の両方をカバーするか
- 検索要件への対応:日付・金額・取引先での検索ができるか
- 費用とリプレイス耐性:移行時にデータの原本性を引き継げるか
自社の体制に合わせて選ぶ
取引件数が多く、経理担当が限られているなら、入力から保存までを自動化できるシステムが向きます。逆に件数が少ない小規模事業者は、事務処理規程+低コストツールでも十分対応できます。「高機能=正解」ではなく、運用が回る最小構成を選ぶのが失敗しないコツです。
入力負担そのものを減らす視点も重要
電帳法対応では「保存方法」に意識が向きがちですが、現場の負担はそもそもの入力作業にあります。保存要件を満たしつつ、領収書・レシートのデータ化や仕訳作成を効率化できると、対応のコストパフォーマンスが上がります。
電帳法の他のテーマは電帳法・インボイスのカテゴリにまとめています。減価償却など個別の仕訳判断は減価償却の仕訳解説も参照してください。
【参考】領収書・レシートのデータ化を効率化する「AI仕訳」
ここまでは中立的に制度を解説してきました。最後に、電帳法対応とあわせて入力負担を減らす選択肢として、当社サービス「AI仕訳」を補足的に紹介します。
AI仕訳でできること
AI仕訳(運営:株式会社Saucer)は、領収書・レシート・クレジットカード明細・銀行通帳などをAI-OCRで読み取り、AIが仕訳データを自動生成するサービスです。生成したデータは会計ソフトにCSVで取り込めます。
- 対応入力:領収書/レシート/カード明細/通帳(振替伝票・入出金伝票のデータ化にも対応)
- 会計ソフト連携:マネーフォワード クラウド会計/freee会計/弥生会計にCSVアップロードで取込可(その他CSVインポート対応ソフトも順次拡大予定)
- 処理速度:1枚あたり数秒〜数十秒で仕訳データを生成
- サポート:公式LINEで対応
電帳法のスキャナ保存・電子取引対応を進めるなかで「読み取り・仕訳の手入力が重い」と感じる場合に、入力工程の自動化として活用できます。タイムスタンプや保存要件の最終的な取り扱いは、利用する会計ソフト・保存システム側の仕様と国税庁の最新情報をあわせて確認してください。
まずは試してみたい方へ
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タイムスタンプ 電子帳簿保存法に関するまとめ
最後に、本記事の要点を振り返ります。タイムスタンプは「真実性を満たす一手段」であり、改正後は必須ではなくなりました。
- タイムスタンプは電子データの存在証明・非改ざん証明の技術(仕組みはハッシュ値)
- 2022年改正で、履歴の残るシステム等を使えばタイムスタンプは不要
- タイムスタンプ以外の方法は「履歴の残るシステム」と「事務処理規程」の2つ
- 単体タイムスタンプは有料(目安:月額8,000〜10,000円/従量1回10円前後+初期費用)
- 対応は3区分に仕分け→真実性の満たし方を決定→可視性確認→運用文書化の順で進める
自社の取引量と体制に合わせて方式を選び、入力工程まで含めて効率化すれば、電帳法対応は負担なく定着させられます。制度の最終的な取り扱いは、国税庁の最新の一問一答・取扱いを必ず確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 電子帳簿保存法でタイムスタンプは必須ですか? A. 必須ではありません。訂正・削除の履歴が残るシステムでの保存など、一定の要件を満たせばタイムスタンプの付与は不要です。要件を満たせない運用の場合に、タイムスタンプが現実的な選択肢になります。
Q. 電子帳簿保存法における認定タイムスタンプとは? A. 一般財団法人日本データ通信協会が認定した事業者(総務大臣認定の時刻認証業務)のタイムスタンプを指します。電帳法で認められるのはこの認定タイムスタンプです。
Q. 電子帳簿保存法でタイムスタンプは無料ですか? A. 単体サービスは有料が一般的です。一方、会計・経費精算システムに機能が内包されていれば実質追加費用なく使える場合があり、履歴の残るクラウドを使えばタイムスタンプ自体を使わずに対応できます。
Q. 電子帳簿保存法におけるタイムスタンプの仕組みは? A. 電子データから固有のハッシュ値を生成し、時刻情報とともに記録します。後で再計算したハッシュ値が一致すれば、その時刻に存在し改ざんされていないことを証明できます。
Q. スキャナ保存でタイムスタンプはいつまでに付与しますか? A. タイムスタンプを使う運用では最長で約2か月+おおむね7営業日以内です。同じ期間内に履歴の残るシステムへ格納すれば、タイムスタンプ自体は不要です。
Q. 電子取引のデータにタイムスタンプは必要ですか? A. 必須ではありません。事務処理規程の整備や訂正削除履歴の残るシステム利用でも真実性の要件を満たせます。ただし電子取引データは原則として電子のまま保存する義務がある点に注意してください。