「取引先がインボイスに登録していない」「もらった領収書にインボイス番号がない」——制度開始から時間が経った今も、現場ではこうした「インボイスなし」の取引にどう対応すべきか迷う場面が絶えません。

この記事では、インボイスがない場合に何が起きるのかを、買い手・売り手の両方の立場から整理します。経過措置の最新の割合、番号なし領収書の経費計上、免税事業者への支払い、具体的な仕訳まで、実務でそのまま使える形で解説します。

先に結論:インボイスがなくても「経費(費用)」としては計上できます。影響するのは消費税の仕入税額控除だけで、しかも一定期間は経過措置で部分的に控除できます。慌てる必要はありませんが、税区分の処理だけは正しく行う必要があります。

インボイスなしとは何を指すのか|まず用語を整理

「インボイスなし」という言葉は、文脈によって2つの意味で使われます。混乱を避けるため、最初に切り分けておきましょう。

「事業者がインボイスを発行できない」状態

ひとつは、取引相手が適格請求書発行事業者として登録していない状態です。インボイス(適格請求書)を発行できるのは税務署に登録した課税事業者だけで、登録していない免税事業者などは、いくら請求書を出してもそれは「インボイス」にはなりません。

  • 登録している事業者 → 登録番号(T+13桁)入りのインボイスを発行できる
  • 未登録の事業者 → 番号入りの請求書・領収書は発行できない(=インボイスなし)

「もらった書類に番号が載っていない」状態

もうひとつは、受け取った領収書・請求書に登録番号などインボイスの記載要件が満たされていない状態です。相手が登録事業者でも、レシートの様式が古い・手書き領収書で番号が抜けている、といったケースが該当します。

状態売り手の登録買い手への影響
正規のインボイスあり登録済み仕入税額控除を満額できる
書類はあるが番号なし未登録 or 記載漏れ控除は経過措置の範囲のみ
そもそも書類なし原則として控除も経費計上も困難

このように、「インボイスなし=経費にできない」ではない点がまず重要です。次章から、買い手・売り手それぞれの実際の影響を見ていきます。

買い手がインボイスなしの取引をするとどうなる?

支払う側(買い手)にとって、インボイスがない取引の影響は消費税の計算に集約されます。会計処理が煩雑になる一方で、所得や利益の計算には基本的に響きません。

仕入税額控除が制限される

消費税の納税額は「受け取った消費税 − 支払った消費税(仕入税額控除)」で計算します。このうち控除できるのは、原則としてインボイスを保存している仕入れ分だけです。

そのため、インボイスのない仕入れについては、後述する経過措置の割合を超える部分の消費税を控除できず、その分だけ自社の納税額が増えます。

つまり買い手のコスト増は「控除できなかった消費税相当額」に限られます。取引全体が無効になったり、経費にできなくなったりするわけではありません。

会計処理・記帳が煩雑になる

実務上の最大の負担は、インボイスありの取引と、なしの取引を帳簿上で区別しなければならない点です。

  • インボイスあり:通常の課税仕入れとして処理
  • インボイスなし(経過措置適用):専用の税区分(80%控除・50%控除など)で処理
  • 控除できない消費税相当額:本体価格への上乗せ、または雑損失等で処理

税区分が増えることで仕訳の入力ミスが起きやすくなり、ひとつひとつの請求書・領収書について「これはインボイスか否か」を判定する手間が発生します。取引件数が多い事業者ほど、この確認作業が経理を圧迫します。

影響しないもの(損金・経費計上)

誤解されやすいのですが、インボイスの有無は法人税・所得税の経費(損金)計上には一切影響しません。番号のない領収書でも、事業に必要な支出であれば全額を費用にできます。影響範囲はあくまで消費税の世界だけと覚えておきましょう。

売り手がインボイスなし(未登録)だとどうなる?

請求する側(売り手)が登録しない場合、法律違反になるわけではありません。登録はあくまで任意です。ただし、取引先の判断によっては実務・売上に影響が及ぶ可能性があります。

取引が見直される可能性

買い手が課税事業者の場合、インボイスのない仕入れは控除制限の対象になります。そのため買い手から見ると、未登録の売り手との取引は「実質的にコスト高」になりやすく、次のような対応を取られる場合があります。

  • 取引価格(消費税相当分)の見直しを打診される
  • 同条件なら登録事業者を優先される
  • 取引そのものの継続を再検討される

ただし、買い手がすべて一般消費者・簡易課税事業者などであれば、こうした影響は生じにくくなります。自社の顧客が誰かによってリスクの大きさは大きく変わります。

消費税の請求はできる

「未登録だと消費税を請求できないのでは」と心配する声がありますが、消費税相当額を含めて請求すること自体は禁止されていません。免税事業者でも、これまでどおり税込価格で請求できます。

問題になるのは「インボイスとして発行できない」点だけです。価格表示や値引きの扱いは、取引先と事前に合意しておくのが実務上のトラブル回避策です。

登録するかどうかの判断軸

登録の要否は、コスト・事務負担・取引先の構成を天秤にかけて判断します。下表を目安にしてください。

自社の状況登録の必要性理由
取引先が課税事業者(BtoB)中心検討すべき取引先の控除制限を避けるため
取引先が一般消費者中心(BtoC)低い相手が控除を行わないため
取引先が簡易課税・2割特例の事業者低い相手の納税額に影響しないため
免税のメリットを優先したい任意納税・事務負担を抑えられる

インボイスなしでも経費計上できる?番号なし領収書の扱い

ここが現場で最も問い合わせの多いポイントです。結論から言えば、インボイス番号がない領収書でも費用として計上できます

結論:費用計上は問題なくできる

繰り返しになりますが、所得税・法人税における経費(損金)の判定にインボイスは関係しません。事業に関連する支出であることが説明でき、支払いの事実を示す書類(領収書・レシート・明細など)があれば、番号の有無にかかわらず計上できます。

  • 接待で使った飲食店の手書き領収書(番号なし)→ 交際費として計上可
  • 個人商店での備品購入レシート(番号なし)→ 消耗品費として計上可
  • 影響するのは「その支出に含まれる消費税を控除できるか」だけ

影響するのは消費税の控除だけ

番号なし領収書で唯一気をつけるのは、消費税の仕入税額控除です。経過措置の割合を超える消費税相当額は控除できないため、その分を本体価格に取り込むか、損失として処理します。

たとえば11,000円(うち消費税1,000円)の支払いで控除割合が50%なら、500円は控除でき、残り500円は控除できず費用側に取り込む、という整理になります。

番号なし領収書を受け取ったときの対処手順

  1. 相手が登録事業者か確認する(番号の記載漏れなら再発行を依頼)
  2. 未登録と判明したら経過措置の対象として処理する(税区分を分ける)
  3. 帳簿に「経過措置適用」である旨を記録しておく
  4. 控除できない消費税相当額の処理方法を社内ルール化しておく

関連する勘定科目の判断に迷う場合は、コピー代の勘定科目システム利用料の勘定科目など、科目別の解説も参考になります。

経過措置とは|80%・50%控除の期間と割合

インボイスなしの取引で最も重要なのが、この経過措置です。免税事業者などからの仕入れについて、一定割合の控除を認める激変緩和措置で、期間によって割合が変わります。

控除割合のスケジュール

免税事業者等からの課税仕入れについて、インボイスがなくても以下の割合を控除できます。

期間控除できる割合
2023年10月1日〜2026年9月30日仕入税額相当額の 80%
2026年10月1日〜2029年9月30日仕入税額相当額の 50%
2029年10月1日以降控除不可(0%)

つまり制度開始から6年間かけて段階的に控除割合を引き下げ、最終的にゼロにする設計です。現時点(2026年6月)は80%控除の期間ですが、2026年10月からは50%に下がる点に注意してください。

経過措置の期間や割合は税制改正で見直される場合があります。実際の処理にあたっては国税庁の最新情報を確認してください。

経過措置を適用するための要件

経過措置は自動では適用されません。次の2つを満たす必要があります。

  • 帳簿に「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を記載する
  • 区分記載請求書等の記載要件を満たした請求書等を保存する

要件を満たさないと、本来受けられる80%/50%の控除も受けられなくなるため、記帳ルールの整備が不可欠です。

仕訳の具体例

11,000円(税抜10,000円・消費税1,000円)の商品を免税事業者から仕入れ、控除割合80%のケースで考えてみます。

  • 控除できる消費税:1,000円 × 80% = 800円
  • 控除できない消費税:1,000円 × 20% = 200円(仕入本体に取り込む)
借方金額貸方金額
仕入10,200円現金11,000円
仮払消費税800円

このように、控除できない200円を仕入(費用)側に上乗せして処理します。会計ソフトでは「経過措置80%」などの税区分を選べば自動計算されるため、手計算する必要はありません。減価償却資産を経過措置対象で購入した場合の考え方は、減価償却の仕訳の記事も合わせて確認するとイメージしやすくなります。

インボイスなしの請求書・領収書の書き方

売り手として未登録の場合でも、買い手が経過措置を適用するためには、一定の記載要件を満たした請求書・領収書を発行する必要があります。インボイスではなく「区分記載請求書」の要件です。

区分記載請求書に必要な記載事項

未登録事業者が発行する請求書には、最低限以下を記載します。登録番号と税率ごとの消費税額は不要ですが、それ以外は通常どおりです。

  • 発行者の氏名または名称
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率対象ならその旨)
  • 税率ごとに区分した合計額
  • 交付を受ける相手の氏名または名称

インボイスとの記載項目の違い

記載項目インボイス区分記載請求書(未登録)
登録番号必要不要
税率ごとの消費税額必要不要
税率ごとの合計額必要必要
軽減税率の対象である旨必要必要
発行者・相手先・日付・内容必要必要

買い手が確認すべきポイント

受け取り側は、まず相手が登録事業者かどうかを見極めることが起点になります。確認方法は次のとおりです。

  1. 請求書・領収書にT+13桁の登録番号があるか目視で確認
  2. 番号がある場合は**国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」**で実在を照合
  3. 番号がなければ未登録(または記載漏れ)と判断し、経過措置で処理

帳簿の整理を紙やエクセルで行っている場合は、エクセル帳簿の作り方の記事も実務の参考になります。

インボイス対応が必要ないケースもある

すべての事業者にインボイス対応が必須というわけではありません。自社の立場によっては、対応そのものが不要なこともあります。判断の見落としを防ぐため、整理しておきましょう。

売り手として対応が不要なケース

取引先(顧客)がすべて次のいずれかに該当する場合、インボイスを発行できなくても相手の納税に影響しないため、登録は不要と考えられます。

  • 一般消費者(そもそも仕入税額控除をしない)
  • 簡易課税制度を適用している事業者
  • 2割特例を適用している事業者
  • 免税事業者

買い手として対応が不要なケース

買い手側も、次の場合はインボイスの保存にこだわる必要が薄くなります。

  • 自社が簡易課税制度を選択している(仕入のインボイス保存が控除の要件にならない)
  • 自社が2割特例を適用している
  • 自社が免税事業者である(そもそも消費税を納めない)

少額特例・少額返還インボイスの特例

事務負担を軽減する特例も用意されています。

特例内容
少額特例税込1万円未満の課税仕入れは、インボイスなしでも帳簿の保存のみで控除可(対象:基準期間の課税売上高1億円以下等の事業者、2029年9月末まで)
少額な返還インボイス税込1万円未満の値引き・返品について、返還インボイスの交付が不要

自社が「少額特例」の対象なら、1万円未満の経費についてはインボイスの有無を気にせず処理できます。対象期間・要件は国税庁の情報で必ず確認してください。

インボイスなし取引の経理を効率化する方法

ここまで見てきたとおり、インボイスなしの取引で生じる負担は「1件ずつインボイスか否かを判定し、税区分を分けて記帳する」という地道な作業に集約されます。取引件数が多いほど、この確認と入力が経理のボトルネックになります。

手作業での判定・記帳の限界

紙の領収書やレシートを目で見て、番号の有無を確認し、税区分を選んで会計ソフトに手入力する——この流れは、件数が増えると次の問題を招きます。

  • 番号の見落とし・税区分の選択ミス
  • インボイスありとなしの仕分け漏れ
  • 経過措置の割合変更(80%→50%)に伴う設定変更の手間

AI-OCRと自動仕訳という選択肢

こうした入力作業を軽減する手段として、領収書やレシートをスキャンしてデータ化し、仕訳を自動生成するサービスの活用が広がっています。手入力を減らすことで、経理担当者は判定や確認といった人にしかできない作業に集中できます。

AI仕訳でできること(自社サービスのご紹介)

当サイトを運営する株式会社Saucerでは、AI-OCRと自動仕訳のサービス「AI仕訳」を提供しています。インボイスなしの取引が混在する経理でも、入力負担を抑えたい方向けの選択肢です。

  • 領収書・レシート・クレジットカード明細・銀行通帳をスキャンし、AIが仕訳データを自動生成
  • マネーフォワード クラウド会計・freee会計・弥生会計などにCSVで取り込み可能
  • データ化は1枚10円〜(業界最安値を訴求)、ScanSnapシリーズに対応
  • 公式LINEでのサポートあり

インボイスの有無で増えた確認・入力の手間を減らしたい方は、まず無料で試してみてください。 AI仕訳を無料で試す

料金やキャンペーンの最新情報は公式サイトでご確認ください。記帳代行や仕訳の効率化に関心があれば、記帳代行・経理代行のカテゴリもあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

インボイスがないとどうなる?

買い手側は、原則として仕入税額控除が受けられなくなります。ただし経過措置により、2026年9月末までは50%超(80%)、2026年10月〜2029年9月は50%を控除できます。売り手側は法律違反にはなりませんが、取引先から価格や取引の見直しを求められる可能性があります。所得税・法人税の経費計上には影響しません。

インボイス登録しなくていい人は?

取引先がすべて一般消費者・簡易課税事業者・2割特例の事業者・免税事業者の場合は、相手の納税に影響しないため登録不要と判断できます。また自社が免税事業者で、取引先からの値引き要請などの影響を受けないと見込めるなら、登録は任意です。

インボイスのない領収書はどうなる?

費用(経費)としては問題なく計上できます。影響するのは消費税の仕入税額控除のみで、経過措置の割合に応じて一部のみ控除できます。番号の記載漏れの場合は、発行元に再発行を依頼するのが確実です。

インボイスに登録しないメリットは?

免税事業者のままでいられるため、消費税の申告・納税義務が生じず、事務負担と納税負担を抑えられます。一方で、課税事業者の取引先からは取引や価格の見直しを求められるリスクがあるため、顧客構成を踏まえて判断する必要があります。

インボイス未登録業者へは消費税を請求できない?

「請求してはいけない」という法律上の規定はありません。免税事業者でも消費税相当額を含めた税込価格で請求できます。ただし買い手側で控除が制限されるため、価格や値引きの扱いは取引前にすり合わせておくのが実務上のトラブル回避策です。

インボイス番号がない領収書はどう仕訳する?

経過措置の対象として、課税仕入れの税区分(80%控除・50%控除など)で記帳します。控除できない消費税相当額は仕入本体に上乗せするか雑損失等で処理します。会計ソフトの税区分設定を使えば自動計算され、手計算は不要です。慶弔費など科目判断が必要な支出は慶弔費の勘定科目も参考にしてください。

免税事業者への支払いで気をつけることは?

事前に「経過措置で対応するのか」「消費税分の金額を調整するのか」を取引先とすり合わせておくことが重要です。請求書が来てから処理方針を決めるのではなく、免税事業者との取引がある時点で社内ルールと取引条件を整理しておくと、記帳の混乱や取引トラブルを防げます。


インボイスがなくても取引は無効になりませんし、経費にもできます。実務で本当に気をつけるべきは、消費税の控除割合(経過措置)と税区分の記帳だけです。本記事の表と手順を社内ルールに落とし込み、増えた確認・入力の負担はツールで軽減しながら、過不足のない対応を進めてください。電帳法・インボイスの関連情報は電帳法・インボイスのカテゴリに随時まとめています。